個人輸入物語③ ~はじめてのebay~

teddy bear愛子は困っている。現在進行形で、とても困っている。

夫の良彦が会社で、以前個人輸入をしたのだと喋った。そこまではよかった。よくある世間話のひとつだ。しかし、それが思わぬ方向に転がったのだ。

「偉そうに自慢するからこうなるのよ」

「偉そうになんてしていないよ。……ちょっとだけ自慢したけど」

「正直でよろしい」

夫婦喧嘩に発展こそしなかったものの、二人でパソコンのディスプレイを見つめながら、青色のため息をついた。

事の発端は、ほんの数時間前。

サービス残業もそこそこに帰宅しようとした良彦は「ねえ」と太田から声をかられた。太田は、良彦の課の先輩だ。

「確か高橋さん、前にアメリカから服を買ったって言っていたわよね」

高橋、は良彦の苗字。妻が子供服を、と返事をすると、太田は目をきらめかせた。

「実は、アメリカで買って欲しいものがあるの! 代金は後で払うから。今日メールするわね」

帰宅した良彦から話を聞いた愛子は、ふうん、と頷いた。いいんじゃないの? と乗り気でもあった。この時は。

夕食や子供の寝かしつけをすべて終えてから、二人はようやくパソコンを起動させる。

届いたメールに貼られていたURLを開くと、おおきなヌイグルミの写真と、英語ばかりのページ。そこまでは予想の範囲内だ。

しかし予想外だったのは、ヌイグルミの横に刻々と減って行く数字と、それを表す[Time left] の文字、そして値段の下の空欄と[ Place bid ]の文字。

慌てて翻訳ページを使うと、Time left…残り時間、Place bid…入札する、と出てきた。

「残り時間とか入札って、オークションよね?」

「だよなあ」

だよなあ、じゃないわよと、愛子はまたため息をついた。冒頭の困っていること、とはこれだった。

「断ったほうがよさそうだなあ」

「もう。一回引き受けたんでしょ。残り時間はまだ五日ほどあるみたいだし、断る前に聞いてみましょうよ。
オパスの買い物代行は、オークションもやってるのかって」

良彦を介してしか知らない太田に、親身になるには理由があった。メールの内容はURLが貼られているだけではなかったからだ。そこには、ずっと探していたぬいぐるみだという思いの丈が、事細かに書き綴られていたからだ。

それを読んで、愛子ははじめて個人輸入をしたときの気持ちを思い出した。まだ一回しか経験が無いけれど、実際に個人輸入したという自信が、愛子を駆り立てたのだった。

「明日、聞いてみるわ!」

だが、愛子は知らなかった。

個人輸入した物の販売はもちろん、贈与をしてはいけない、ということを。

それは翌日オパスに電話で相談したときに分かったことだった。

果たして無事に入札できるのか、クマのぬいぐるみは手に入れることができるのか。それが決着したのは、そこからさらに一日置いてからだった。

つづく

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※この物語の登場人物はフィクションです

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